一章 Meet Again 再会3

2019年10月03日

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シャノンの屋敷からエア・カーで二十分ほど走った所に、彼の言うデリッチ居住区がある。洒落た高層マンションが立ち並び、整備された道路は広く、公園の木々は緑蔭を作れるほど豊かで手入れがいきとどいており、ちょっとした高級住宅街だ。
ランドルフに与えられた『ねぐら』は、ワンフロアーを一戸分とした豪華なものだったが、一人身の彼には不必要に広かった。彼は広すぎるダイニング・ルームにベッドを入れて、その上生活に必要なものを全て置き据えたのだが、それでも空間は少しばかり余ったのには閉口した。  いったい誰がこんな空間を埋めるのかと考えてみたが、貧困な想像力ではたいした答えも思いつかなかったので、気分を変えるためと、『引越し』(室内の)の汗を流すためにシャワーを浴びた。
濡れた髪を掻き上げながら窓辺に立つと、みごとな夜景が目に飛び込んで来た。はるか遠くの正面にはクリスタリアが見える。黒いベルベットの上に、光を放つ宝石を積み上げたような姿は、そのままクリスタリアの体制と歴史を表わしているようだった。
この惑星――ラファルグには国家がない。いや、国家という概念がないと言ったほうが正しい。独立都市としての一つの組織が、国家と同様のものと捉えてよかろう。
ラファルグは都市形態の組織の集団で形成されている。その為、都市間の抗争が絶えることがなく、弱肉強食の淘汰が行なわれてゆき、多い時では五百を越えたシティも今では二百前後のメトロポリスになっていた。
シャノンの治めるシルバー・シャトーや、彼の言う敵対するクリスタリアはそんな中でも強大な勢力を持つシティである。
彼等の祖先たちは惑星・ジルコニアンを母星とし、「国」と称するものを持っていた。今から千五百年ほど前、他星への植民を開始し、老いた惑星からの脱出を始めた。わずか五百年のちにはジルコニアンの人口は三分の二に減ったと言われる。そして人種としてまとまりを失い、国家としてまとまりを失い、混血が進んだ。
あまたの植民惑星に移住したものの、環境の変化に適応できなかったのか、現在に至るまでに子孫を残した所は少ない。
惑星ラファルグはジルコニアンを代表する国が最初に移民を試みた星で、比較的、ジルコニアンの文化、人種の継続がスムーズに運んだ。しかしその為に人種の「血族」としての意識が高まり、他種族との交流を難しくして、閉鎖的で極めて結束力の強いシティを作り上げてしまったのである。
ジルコニアンに住んでいた人々にはなかった血族意識だった。
クリスタリアは、もともとジルコニアンにあった同名の国からやってきた貴族らの作ったシティで、階級制度が殆ど無意味なものになっている現在でも、クリスタリアの住民は強い階級意識を持っていた。
それに対し、シルバー・シャトーは母星ジルコニアンがまだ若かった頃に存在したルージェ族の血を持つ者達が集ったシティだ。ジルコニアンからの移民が始まった時点で、 ルージェ族の本来の姿形――有翼種だった――をしている者など一人もいなかった。
遠い昔に滅んだ種族だったのだ。しかしどれほど混血が進もうと遺伝子は失われず、それどころかルージェのDNAは気まぐれにその特徴を表面に押し出した。
すなわち、強力なESP能力を持つという、ルージェ族本来のもう一つの姿を内に秘める人間を作りだしたのである。
そして、シルバー・シャトーはそんな血に目覚めた者達が多く集っていた。シティの名の由来は、ルージェの血に目覚めた者たちがジルコニアンにいたころ、秘密結社の形をとって集っていたクラブからきている。ルージェの血は忌むべきものとして、つねに社会から排斥され続けていた。しかし、排斥された連中は無力ではなかった。やがて、自然と、また密やかに集い、クラブとしての社交場を持つに至った。
ラファルグのシティがいくら閉鎖的であるとはいえ、異種の血が混じるのをゼロにすることは難しく、わずかながら、しかし確実に血の混じった者を吐き出した。
シャノンは「ジルコニアンにあった時点で、純血の種などなかったのに、今は滑稽なまでに血に執着するんだな」と嘲笑する。彼は他のシティで迫害された混血の人々をシル バー・シャトーに受け入れ、友好的な共存は難しいにしても、彼等に居住区を与え、安住の約束をしてやった。もちろん多くの規制を加えはしたが、弱小でまとまりをもたぬ彼らはそれを受け入れ、喜んで従った。ルージェの血族という概念自体が不定型であるため か、住民もほかのシティほど拒絶反応を示さなかったこともある。
ランドルフもそんな混血の民の一人だった。父はクリスタリアの貴族で、母はエンソールというシティの人間らしい。父方に引き取られ、クリスタリアの市民権を与えられた が、彼は一度も父の顔を見たことがないまま、十五歳の時に士官学校を中退、市民権を放棄し、宇宙に飛び出した。そこから六年間の足取りはまったくつかめないが、再びこの星を訪れたのは派手なシティ間の抗争があった時で、あるシティの傭兵として艦隊を率いていた。
雇い主の満足する功をたてたものの、彼はそのシティに留まらずに姿を消し、多くの集団を率いて指揮を取ることは今に至るまで一度もない。友人や部下達も大半は故意に行方をくらまし、シティに残ったのは五分の一にも満たなかった。だがその実、彼の一声で各地に散った仲間が集まり、もう一度艦隊を組めるだけの情報網と、組織でない組織力を持ち続けていた。それゆえ、ランドルフが一匹狼のように暮す今も、小さいシティの支配者はランドルフを恐れた。彼がその気になれば、弱小なシティなどあっと言う間に潰されるだろうからだ。
味方に付けようにも、ランドルフの気分次第である上、まず、どこにいるのかつかめない。いい例が二年前に死んだと思われていたことがそれだ。そしてそれらのことが色々と重なって更に不安感をつのらせる原因となった。
もっとも本人に言わせれば、勝手気ままに生きているだけだし、シティの小心者の支配者に気を使うほど、悪いことはしていないとのこと。
しかしシティを治める者として、ランドルフは要注意人物のリストからはずすわけにはいかない。味方に付けばこの上なく心強いが、敵に廻ればこれ以上恐ろしい人物はいな かったからである。
さて、当のランドルフは久しぶりの家となったマンションのダイニング兼ベッドルームで大きな伸びをすると、座り心地の良いソファーに身を沈め、うとうとしているうちに、そのまま朝まで寝込んでしまった。

 

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  • 筆者
    そにあ
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